お腹が痛い!
外が明るくなる頃からお腹がしくしくと痛くなってきた。
看護師さんに訴えるものの、今回の手術で切った場所でもないので対処はしてもらえなかった。
仕方ない。
過去の経験から、空腹が原因だろうと思えた。
もう48時間近く何も口にしていない。
胃も空っぽだ。
水でもいいから飲めれば変わるんだろうけど、口の中の手術のため、口からは食べ物はもちろん水分を取るのは数日先の話。
ただ耐えるしかなかった。
やがてキリキリと痛くなり、痛い範囲が広がってゆく。
あまりの痛さに仰向けで寝ていられなくなった。
横向きになろうと体を動かしてみる。
喉を通っている管が苦しくて、右側にしか向けない。
左手でベッドの右側の手摺を掴み腕の力だけでなんとか右横向きになってみる。
ふぅ。
お腹の向きが変わったおかげで少し痛みが和らぐ。
ベッドの手摺にしがみついたままでいると天使の看護実習生さんがやってきた。
「体の向き変えたいんですね! 枕入れますね!」と言って、背中を枕で支えてくれた。
ふぅ。
助かった…
そのまま30分くらい寝落ちしてしまった。
寝たきりからの脱出
夜勤の看護師さんから朝の看護師さんに担当が変わった。
「お腹が痛いのは歩けるようになると変わると思うので、頑張って歩いてみましょう」
「一般病棟に戻るのでそれまでに1回歩いてみましょうね」
この苦痛から逃れられるなら、頑張って歩くよ。
どこまで歩けるかわからんけど。
寝たきりから歩けるようになるまでは意外にすんなりといけるのは過去の体験からわかっていた。
早く一般病棟にも戻りたい。
そのうち、導尿カテーテルにも違和感を感じるようになってきた。
尿意は感じないはずなのに、やたらトイレに行きたくて仕方ないのだ。
午前中、体を拭いてもらっている時に看護師さんに訴えると、
「トイレに行きたい気持ちが歩くことにも繋がるのでカテーテル外しますね」
と、あっさりと導尿カテーテルを外してくれた。
やった!
スッキリ!!
これでまたひとつ管が減った。
管が外れてもやっぱりトイレに行きたい。
改めてトイレに行きたいと伝えると、
「じゃあ、起き上がってみましょうか」と言ってくれた。
まだ頭がクラクラとするので、自分のペースでベッドの背もたれに少しずつ角度をつけて起き上がる。
ベッドに体を預けたまま、外の景色が見えるところまで起き上がってきた。
めまいはまだする。
片目ならいいが、両目だと目が回る。
両目が開いていられるようになるまで、時間をかけて待つ。
そして、ようやく手を伸ばしてメガネを取り、かけてみた。
うん。
なんとか大丈夫。
クラクラはするけど、なんとか立てそうだ。
ズルズルと体を引きずりながら、なんとかベッドから足を下ろす。
体の中で血流が変わったのがわかった。
大して動くこともできず、ベッドに体を預けることしかできないまま48時間寝たきりだったからなぁ。
そんなことを思いながら足元を見つめる。
そこに看護師さんが来てくれて、立ち上がるのを手伝ってくれた。
点滴スタンドを杖がわりにヨロヨロと立ち上がる。
クラクラするけど、立ち上がって、すり足で歩いてみた。
看護師さんに介助してもらいながらヨタヨタとトイレまで歩いていけた。
ふぅー
トイレで座り込む。
歩くって大変だぁ。
寝たきりからいきなり立って、歩くのってこんなにしんどいのか。
でも、まだ頭はクラクラとするけれど、不思議なもので立ち上がると体にスイッチが入ったようにしゃんとする感覚はあった。
トイレからの帰りには、体が「歩くこと」を思い出した。
あ、歩くってこうやって体使うんだ。
体が覚えてくれてる。
そこに意志がなくとも、体が「歩くこと」を思い出して勝手に動いてくれていた。
また、動いたことで体が目覚めてくれた。
そんな感覚もあった。
行きより遥かにラクに歩いてベッドまで戻れた。
もちろんまだヨタヨタだし、介助がないと危なっかしいけど。
ベッドに戻ると、動いた疲労感で少しだけ眠ることもできた。
動けるって 凄いことなんだなぁ。
一般病棟へ
うとうとと寝ていると看護師さんがやってきて、「一般病棟へ移る準備をしますね。」
と言って身の回りの荷物をまとめてくれた。
まだ歩いて帰るのはきついので、ベッドのまま一般病棟へ戻ることになった。
幸いにも手術前にいた部屋の同じ窓際に戻ることができた。
病棟の看護師さんに引き継ぎされ、ICUにあった荷物と、病棟で預かってもらってた荷物が戻ってきた。
が、さすがにまだ起き上がって片付けられるほど元気はない。
頭は相変わらずボンヤリしている。
病棟に戻ってくると通信は自由になるが、iPhoneを触る気にもなれなかった。
まだめまいが残っていて、文字を読む気になれないのだ。
引っ越しが落ち着いて、そのまま少し眠っただろうか。
目が覚めてトイレに歩いて行ってみた。
うん。
まだ点滴スタンドに頼りながらではあるけれど、午前よりは全然マシ。
一人でも行ける。
歩ける。
トイレに行った時に、すれ違った看護師さんに、
「お帰りなさい。帰ってくるの待ってましたよ」
と笑顔で言われた。
あぁ、喉頭痙攣起こしたからなぁ。
手術室から一般病棟に戻れる予定が、2日間ICU経由になっちゃったからなぁ。
こうやって、声かけてくれるのって嬉しい。
後からいろんな人に聞いたんだけど、喉頭痙攣ってとてもレアな症例らしい。
看護師さん達は、喉頭浮腫はたまに見るけど、痙攣は初めて聞きましたって言っていた。
そうなのかぁ。
だから無事帰ってきてくれた みたいな空気があるんだなぁ。
夕方、息子ちんが来てくれて、荷物を使い勝手のいいように配置するのを手伝ってくれた。
その頃には、ベッドの上に自力で座っていられるようにもなっていた。
経鼻経管栄養 開始
この日の夕食から、早速栄養摂取がはじまった。
と言っても、口から食べれるわけではない。
鼻から胃に入っている管を使って、口を経由せず胃に直接栄養を流し込む。
初めての経験なので、喉痛いのかな? とか、苦しいのかな?とかいろいろと想像してみたけど、平気だった。
この二股の先端に、点滴スタンドに吊された栄養の入ったバッグから出ている管を接続し、このままダイレクトに胃に入れていきます。
痛くも、苦しくもないんだけど、意外に冷たくて驚きました。
この冷たさと体に入ってくる速度が早すぎて気持ち悪くなっちゃった。
食べ物が胃に入ってくるスピードを自分ではコントロールできないんだよね。
点滴と同じだから。
お腹がどんどん膨れてゆく〜
ノンストップで500ml。
結構苦しかった。
ちなみに口からではないので味はわからないけど、胃に入った栄養の風味は上がって来るのでだいたいどんな味かは想像できます。
甘そうな風味がしていました。
実際処方されていたのはこれ。
栄養のあとは投薬。
水に溶いた薬をシリンダーに入れ、胃管の先端に繋いで、看護師さんが入れてくれます。
薬も鼻からの管経由でダイレクトに胃に入ります。
最後はお茶を200ml。
同じように鼻から。
栄養はどうしてもドロドロで水分が不足がちになるため、お茶で補給。
あわせて700mlを一気に摂るので、お腹はたぷたぷ(笑)
口から食べてないけど、げっぷも出た。
寝たきりから栄養摂取へ大きく前進
今朝はまだICUで苦痛に悶絶して横たわっているだけだったのに、夕方にはトイレに問題なく行け、鼻から栄養もスタート。
1日で、今朝までICUで唸っていた人とは別人じゃないかと思えるぐらいにまで回復して、自分の回復っぷりに驚いた1日だった。
動ける、食べれるって、エネルギーも使うけど、活力の源でもあるんだなぁ。
ただ安静にしているだけとは、体の中の活力が全然違う。
体の中から活力が湧いてくるような感覚がある。
動ける、食べれるっていうだけで、体中の細胞が活性化してる感じがするんだよね。
ICUで寝ているだけの時間は、体力を温存しているだけっていう感じだった。
この体感覚の違い、覚えておこうと思う。