とりあえず、呼吸器の苦しさからは開放されたけど、今から思えば苦しさの山場はここからでした。
残っていた麻酔が切れていくにつれ、痛さと苦しさに耐える時間がはじまりました。
苦痛しかない時間
人工呼吸器が外れて声が出せるようになったのは良かったんだけど、ここまでは麻酔も残っていたし、鎮静剤も効いていたので、ある意味強制的に眠らされていたようなもの。
なので、苦しさはあまり感じなかった。
でも、ここからはそれぞれの効き目が切れてゆき、痛みも、苦しさも全身で感じることになっていった。
少しずつ回復はしてゆくのだけれど、苦痛のピークでもあった。
何が苦しいって、痰との格闘。
人工呼吸器を外した直後から、出るわ出るわ。
最初は血が混じり、やがて膿で真っ黄色の痰を、鼻から口から出しまくり。
その度に、喉や舌を動かすので痛い痛い。
あまりの苦痛で、出すたびに涙も出る。
おまけに、首の向きを変えるだけで、鼻から入っている胃管の位置が喉で変わるので、気持ち悪いし、苦しいし、痛い。
沈痛剤は切らさず入っているはずだけど、それでも痛い。
舌の術創より、喉の痛さ、苦しさの方が強くて、舌の痛さなんて気にならないレベルだった。
そして、4日目午前中は、麻酔が残っている影響で目眩もひどかった。
目を開けていられない。
目を開けても焦点があわない。
頭はクラクラしっぱなし。
とにかくこの午前中は苦しかった記憶しかない。
痰の苦しさ、目眩の苦しさを体験したことがある人なら、きっとわかっていただけることだろう。
遠隔ヒーリング
苦痛に悶える中で、意識も少しずつハッキリしてくる。
そんな中、苦痛から逃れようとするために、体をものすごく強張らせ、緊張させていることに気がついた。
気づく度に、なんとか自分で体に力を入れないよう緩めるのだけれど、苦しい、痛いのは感じ続けているので、気がつくとガチガチに体に力が入っている。
う゛ーん。
このままでは力尽きてまう。
この緊張で、かえって疲れが増すんじゃないか…
その時、ふっと、過去に受けた遠隔ヒーリングによって体が緩んでいく感覚を思い出した。
あぁ、あの緩さが欲しい…
遠隔ヒーリングを受けたい…
わたし自身が遠隔ヒーリングの効果を感じるようになったのはここ1年のこと。
昨年けんちゃんが倒れた時に受けて、効果を体感したので、それ以来ちょくちょくお願いしていた。
今回の入院手術に際しても、予め手術の前後でお願いはしてあったのだ。
ただ、イレギュラーなことがあって、わたしがICUにいることは知らないはず。
そこで、ずっとICUに付き添ってくれていたけんちゃんに、紙とペンを持ってきてもらって、そこにこういうメールをわたしのiPhoneから発信して欲しいとお願いした。
別の言い方をすれば、お昼ぐらいには、こういった手順を紙とペンを使って説明できるぐらいには回復してきていた。
お願いしたのは、山本尚美さんと、伊藤マナさんヒロさん。
お二方ともLPLの先輩セラピストであり、ヒーラーでもある。
自分の状態を書いて、それをそのままけんちゃんに代理発信してもらったから、発信した時間や、返信があったのか、わたしは知ることができなかった。
ICUは通信も禁止だからね。
お二方に丸投げしただけだった。
それでも、けんちゃんが発信したであろう時間の後、苦痛から楽になり、心地よく眠ることができた時間があった。
その時、わたしがやっていたことは、みんなと繋がること。
iPhoneと一緒に手術室に持っていった、魔除けタオルと2つのクリスタルも持ってきてもらい、それらを握りしめ、ただひたすら、みんなと繋がろうとした。
手術室に入る寸前に発信したFacebookの投稿にも、きっとたくさんの祈りが届いているだろう。
わたしに向けて祈ってくださった皆さんの愛と祈りを全身で受け取ります! と意図し、送ってくださった方、おひとりおひとりの顔を想像しながら、ひたすら皆さんの愛と祈りを受け容れた。
それが効いたのかどうかは目に見える形ではわからない。
確認のしようもない。
でも、わたしが苦痛から解放されて楽になり、眠りに落ちていた時間がわずかだけれどあったのは事実だ。
この楽で穏やかになった時間に、担当の先生方が入れ替わり立ち替わり、顔を見にきてくださった。
ICU内の個室へ移動
4日目の午後、容態も安定したし、部屋も空いたから と個室へ移動させてもらえた。
定期的に血圧を測っていた自動血圧計が外され、右腕が自由になった。
術後からそれまで居た場所は、ひっきりなしに警告音が鳴っていて、自分じゃなくても両隣の方の処置のため、人の声は常に聞こえていた。
個室からは窓が見えた。
まだ体を起こすことはできないけれど、外から差し込んでくる自然光は確認しできた。
ベッドの横には壁掛け時計があった。
メガネをかけていないけれど、大きな時計だったので、だいたい何時頃かは把握できた。
外からの自然光と時計の針を見ながら、ただひたすら苦痛に悶絶した長い長い時間のはじまりだった。
鼻水と痰と唾と涙と。
体の外へ出そうとする度に、喉と舌に痛みが走る。
まだ上手く拭き取れないから、口や鼻の周りはぐちゃぐちゃだし、やがて乾いて髪の毛と貼りつく。
凄いことになってるんだろうなと思いつつ、そんなことに構ってられない。
めまいも変わらず、両目を開けていることができず、目を開ける時は片目だけ。
時計はあるけど時間が経ってゆく感覚がない。
やがて外は暗くなり、夜になった。
面会時間が終わり、人の出入りが減って、ICUの中が静かになった。
ICUってこんなに静かなのかと思うぐらい、静かな夜だった。
時折、うとうととしているのかもしれない。
でも痛みはずっと感じていて意識もある。
喉に絡む痰の苦しさで目が覚める。
自力でなんとか吐き出せる時は口から出し、苦しくて耐えれなくなるとナースコールして、看護師さんに機械で吸い出してもらう。
深夜を担当してくれていた看護実習生の女の子が超可愛かった。
まだ学生のようにも見える。
真夜中に何回コールしてもすぐに来てくれて、「痰ですか?」と優しく声をかけてくれた。
自分が男だったら惚れちゃうかもなぁ なんて思いながら、「ごめんね。苦しいから何度も呼んじゃって」と心の中で詫びる。
あの苦しいひと夜の中で、彼女の甲斐甲斐しい後ろ姿がとても印象的だった。
天使ってこういう子のこというんだろうなぁ。
ほんとに凄い仕事だよね。
看護職って。
あの若さで看護職をやっていく!思える原点はなんなんだろう?
なにか決意する体験でもあったんだろうか。
そんなことを延々と考える。
眠れないから思考が回るし、思考が冴えるから眠れない。
悪循環だ。
こんなことでも考えてもいないと、気が紛れない夜でもあった。
やがて外が明るくなってくる。
一睡もできなかった夜が明ける…。
ただただ苦痛に耐えた一夜が明けた。