心肺停止で倒れた夫のよみがえり日記 4日目
2018年7月28日(土)
台風12号
久しぶりにスッキリとした目覚めの朝だった。
睡眠時間は相変わらず細切れだけれど、疲れが残ってない。
昨夜の先生との会話にどれだけ安心したか、目覚め方でもわかった。
午前中に整体の予約も入れてあるので、久しぶりに朝食も食べる。
今日は台風12号が接近してるから、天気予報を見比べながらの1日になりそうだ。
幸い名古屋への最接近は今夜の予定。
なんとか避けて病院へ行けそうだ。
台風の進路を見ながら、ふと思う。
けんちゃんが元気だったら、今日から3日間、香川県さぬき市で開催される小田和正さんのライブを絡めて四国を旅する予定だった。
明日はけんちゃんの誕生日だ。
二人でしっぽりと道後温泉でお祝いしようと、ちょっと奮発して宿も予約してあった。
今回は行く機会じゃないんだな…
そう思った。
70歳を向かえた小田さん。
ツアーの度に、次はないかも… と毎回思うけど、今回ばかりは、次の機会においでと言われた気がした。
また、二人で行こう。
なんの迷いもなく、そう思えた。
今回の台風は、進路が東から西へと向かう変則な台風だ。
誕生日に台風を呼ぶのが得意技な“嵐を呼ぶ男”けんちゃん、今年はまたヘンなのを呼んだなぁ。
けんちゃんの魂も逆回転しかけたから、同じなのかも。
そんなくだらないことが考えられる余裕もでてきたなぁ。
大動脈内バルーンポンプ
整体から戻って、ランチを食べ、ちょっと昼寝をしてから病院へ、向かった。
病室に入ると先生がいらした。
あれ?!
え?!!
息子と声をあげる。
昨日、先生が熱弁を振るってくれた、心臓の働きをサポートする機器・大動脈内バルーンポンプがない!!!
『あれ? この機械、外したんですか?』
機械があった場所を指さして言った。
『はい。先程外しました』
看護師さんが笑顔で教えてくれた。
モニターを眺めてる先生の背中も、どこか自信ありげに見える。
『昨日は、(外すのは)この週明けかもって言ってたから、驚きました』
『外してもこれだけの数値が出てるので大丈夫だと思います』
先生が静かにそう言った。
看護師さんが後から教えてくれたが、先生は今朝になって、突然外すと言われたそうだ。
看護師さんも「え… 外すんですか?」と驚かれたそうで、ちょっと困惑ぎみに、その時のことを話してくれた。
先生、なかなかチャレンジャーですねぇ。
きっと先生の直観に、何か降りてきたんですね。(笑)
そう思ったらクスリと笑えてしまった。
先生はあまり多くを語らずに、気がついたら退室されていた。
鼠径から心臓に入ってるセンサーのモニターを指しながら看護師さんが詳しく話してくれた。
『抜いて少し変わり波形が変わりましたが、その後は落ち着いているので、このままで大丈夫だと思います。』
モニターを覗き込み、看護師さんが指さしているところを見ると、確かに波形がその前後と違う。
時間を見ると、13:38という数字が目に入った。
まだ1時間も経ってない。
『(抜いたのは)少し発熱ぎみなのもあると思います。』
『これだけ管入ってますもんね』
昨日、先生ともそんな話をしたことを思い出した。
彼は元々リウマチを患っていて、普通の人よりは炎症が起きやすい体質なのだ。
体外からたくさんの管が入っているため、異物としてどうしても反応が起きてしまう。
先生は、少しでも早く、管を減らしたかったのかもしれない と思った。
看護師さんが続けて言う。
『このまま順調なら、明日にでも人工呼吸器を外すことになると思います』
!!!
え! もう外せるんだ!
人工呼吸器を外せるということは、鎮静剤を入れる必要がなくなる。
鎮静剤がなくなるということは、彼が目覚めることを意味する。
『明日の朝には外れたら外したい、と(先生が)言われてたので、明日(わたしたちが)いらっしゃる時間帯によっては起きてらっしゃるかもしれませんよ。』
目を開けた けんちゃんに会えるかも!!!
看護師さんの言葉に、一気に顔が明るくなるのがわかった。
人工呼吸器
人工呼吸器をつけている苦しさは、わたしも体験したことがあるので知っている。
帝王切開で出産して、全身麻酔だったため、目覚めたら、人工呼吸器をつけていた。
の、喉が苦しい…
あの窮屈な感覚は今も忘れられない。
だから、けんちゃんにもその苦しさを味わってほしくなくて、人工呼吸器を付ける前に、付けている間は鎮静剤で眠ってもらうことに承知した。
人工呼吸器を付けていると、自発呼吸をほとんどしなくなるそうだ。
機械から、安定して酸素が送られるために、自分で呼吸する必要がなくなり、自然と呼吸することを止めてしまうそう。
へぇ〜
知らなかった。
人工呼吸器を付けることで、呼吸することを休んでもらった。
そう、看護師さんが教えてくれた。
健康な時には意識することがほとんどない呼吸だけれど、動いていれば当然エネルギーは消費する。
一昨日の彼の状況は、その呼吸さえも心臓に負担がかかるという状態だったということだ。
だから、人工呼吸器を付けたことで、彼の状態は良い方へ向かい出した。
呼吸でエネルギーを消費することも一旦休んでもらって、体の全エネルギーを心臓の回復に注いだのだ。
それだけ、心臓が弱っていたということだ。
それがわずか2日でここまで回復してきた。
彼の生きようとする力は凄い!
人工呼吸器を外すと、苦しくなるから、自然と自発呼吸が始まるそうだ。
人間の生きる機能って凄いんだなぁ。
そして、それをサポートする医療も凄い!
一旦、心肺停止しているから、少し前なら彼はそのまま逝っていたかもしれない。
本当にたくさんのものに支えられて、彼はここまで戻ってきたのだ。
感謝しかない。
倒れた日から4日。
彼の横たわっている姿に変わりはないけれど、
周りの機器がひとつずつ減ってゆき、確実に前進している。
その確信を得られた日だった。
『もどっておいで私の元気』
選 息子
『正しさ』より
一人ひとりがみんなしあわせになるために生まれてきたのに、自分の正しさを主張しあうことで、お互いを傷つけあい、人間関係をこわしていることをあなたは知っている。
そんなあなただから、私は安心して、自分の愚かさや正しさの物差しだけでは生きられない自分を見せることができる。
選 わたし
『見守る』より
あなたがただ、自分をまっすぐに見つめてくれたということが、心からうれしい誰かが扉の向こうに立っているかもしれません。
『見守る』を読みながら、ボタボタと涙が落ちた。
扉の向こうにいるのが、わたしであって欲しい…。