心肺停止で倒れた夫のよみがえり日記 9日目
2018年8月2日(火)

一般病棟へ

昨夜は早く帰宅できたので今までより早く眠れて、朝までぐっすり8時間寝れた。

目覚めもスッキリ。

やっぱりこれぐらい連続で眠らないと体がきつい。

9:30過ぎに病院から電話が入り、一瞬ドキッとする。

でも、今日の電話の予測はついていたので、出てみてやっぱりと思った。

一般病棟への移動の連絡だった。

これでけんちゃんも一安心だろうと、ホッとする。

一般病棟へ移ったので、けんちゃんの勤務先に電話連絡する。

落ち着いたので、一度病院に来ていただくことになった。

これで仕事への不安は減るだろう。

すると、また、病院から電話が鳴る。

今度は何だろうと身構える。

出てみるとけんちゃんの声だった。

ちょっと驚く。

話をに聞くと、何時に来る? という内容だった。

今日は早めに行くよ と答えると、なにやら理由を話はじめたんだけど、話に脈絡がない。

聞いていて、わたしが早く行くことを誰かに言わなきゃ的に聞こえるんだけど、誰に? がはっきりしていない。

うーん。
電話で話していても、らちがあかなさそうだ。

一旦、わかったから、行ってからまた話そうねと言って電話を切る。

目覚めてからけんちゃんが話すことは、ちょっとつじつまが合わないことが多い。

聞いていると、わけがわからなくなるのだ。

まぁ、行ってから話せばいいことだからと、病院に向かった。

トイレ大冒険

歯科に立ち寄ってから病院へ行ったので、いつもより早い時間に着いた。

ちょっと浮き足だって、初めての一般病棟に立ち入る。

ウキウキ♪

病室に入ると、けんちゃんが立ち上がろうとしていてビックリする。

『何やってるの?!』

『トイレに行きたい。』

『ナースコールした?』

『呼んで来なかったら自分で行ってもいいって言われたから、自分で何とかする。』

ちょっと待った!!

8日間も寝てただけの人がいきなり立って、数歩先とは言え、トイレまで歩けるの?!

『ナースコールしようよ』

『いい。何度か呼んでも来てくれないから自分で何とかする』

『ヤジ、ダメだって!』

さすがに息子も声を荒げた。

言い合っていても押し問答のままなので、見かねてわたしがナースコールをした。

すると、すぐに看護師さんが来てくれた。

続けて、先生も来てくれた。

トイレに行きたいと話すと、先生がいきなり立って歩くのはどうか。という顔をする。

後から聞いた話だけど、立つことさえ心臓の負担になるからだ。

でも、今なら先生もいるし、看護師さんも二人来てくれた。
倒れても何とかなる。

先生は一瞬考えて、トイレに行く補助をしてくださった。

ベッドから足を下ろすこともやってないから、立てるかどうかもわからないし、ましてや歩けるかどうかもわからない。

先生は、はじめポータブルトイレにしようと言ってくれたが、けんちゃんはどうしてもトイレに行きたいらしい。

病室内にあるトイレだから歩けば3歩ほどだが、けんちゃんにとっては大冒険だ。

先生は、けんちゃんの意思を尊重してトイレに行かせてくれた。

先生と看護師さんに助けてもらって、ひとつひとつの動作を確認しながら、足を下ろし、立ち上がり、点滴スタンドを持って歩きはじめた

トイレにたどり着くだけでも大変だ。

なんとか自力で歩いてたどり着く。

用を済ます間看護師さんはずっとトイレの前で待っていてくれて、手順をひとつひとつ説明してくれた。

なんとか用を済ませてベッドに帰ってくるまで20分くらいかかったんじゃないだろうか。

先生はその間、ナースステーションでずっと心電図モニターを見ていてくれた。

なんでも自分でやろうとすることは悪いことじゃないけど、見てる方はハラハラする。

先生を後ろから見ていて、まだそんな段階じゃないんだな と悟った。

けんちゃんは、自分でなんでもやりたい人だし、言い出したら聞かない頑固な一面もある。

これからこんなことばっかりなんだろうなぁ。
ちょっと先が思いやられる…

制限

トイレ大冒険からベッドに戻ると、看護師さんから安静を言い渡された。

間もなくすると先生がいらして、管を抜く処置が始まった。

首に入っていた点滴を腕に移し、首の点滴がなくなった。

導尿管も外された。

これでけんちゃんに刺さっている管が1本になった。

これは緊急用でもあるので、この管がなくなる時は退院前だろう。

先程のトイレ大冒険もあって、行動範囲の指示もあった。

基本的にベッドの上での安静。

立ち上がるのもダメ。
部屋を歩くのもダメ。
トイレだけは特別に許可が出たけど、必ず看護師さんを呼ぶこと。
ベッドの上でも、腹筋や筋トレもダメ。
床ずれを防ぐために、体をずらすことはOK。
ベッドを起こして、体を起こしていることもOK。

行動派の彼には、相当窮屈だろうなぁ。

でも、心臓のためには仕方ない。

この病院に来た時に初めて見たけんちゃんは、管まみれで機械に囲まれ、自力で心臓を動かすことも難しい状態だった。

それを思えば、この元気さ。

1週間程前には生死を彷徨っていただなんて、信じられないくらいだ。

もうちょっと、落ち着け。

こっちの気持ちもわかってくれよ と言いたくなる。

こういうギャップはしばらく続くんだろうなぁ。

左腕の痛み

けんちゃんの左腕は今、痛くて動かすことができない。

小指は感覚がなく、わずかしか動かせない。

入院して3日目、左腕が腫れ出したのに看護師さんが気がついて以来、左腕の内側に内出血ができている。

意識が戻った時から痛みもあり、動かしにくかった。

トイレに歩ける程になっても、左腕だけは痛みで動かせない。

担当の先生の見解では、腕の中で内出血し、その出血が広がって、筋肉や神経を圧迫しているんじゃないかということだった。

当初、点滴が漏れたと聞いていたけど、先生に確認すると、左腕に入っていたのは点滴の管ではなく、心臓の動きを見るセンサーのためのものであって、液体は通していない。だから漏れるものはないんですよね ということだった。

原因はわからない。

先生曰く、深刻な状況で、リハビリしながら長期的にみていくことになる との話だった。

そこへ整形外科の先生が来てくださった。

腕を動かしてみながら、確認してみると、全く動かないわけではないようだ。

肩は大丈夫。
上腕に問題があるよう。

手のひらまで内出血が広がっていて暗緑色をしていた。

まずは明日MRIを撮りましょう ということになって、内出血が広がらないように左腕は三角巾で釣ることになった。

けんちゃんは、
車の運転はできないよね。
仕事に行けないよね。
と言う。

いやいや、その前に、その心臓でいつ退院できるかもわからないんだし。

担当の先生も、先週のことを思えば、そんなこと心配できるだけいいです と微笑む。

でも、脳の障害ではないところで、不自由な部分が出てくるのは想定してなかったなぁ。

それは担当の先生も同じ想いのようだ。

なんとか良い方向に向かってくれるといいけれど。

少なくとも痛みはなくなって欲しいな と思う。

止まらない笑い

先生方が退室されて、静かな時間がやってきた。

けんちゃんが倒れてから眠っていた期間のことが、理解しがたいらしいので、ノートに書くことにした。

人間の記憶は曖昧なところがある。

文字として、いつでも見える形にしておけば、けんちゃんも少し安心するだろうと思い、持ってきたノートに経過を書き始めた。

わたしの記憶もすでにあやふやになってきていて、ブログを見ながらノートに転記する。

こんなところで、早速ブログが役に立つとは思わなかった。

書くことは決してラクではなかったけど、毎日せっせと書いてきてよかった〜

わたしがノートに転記している間に、けんちゃんに持ってきた仕事のカバンの中身を確認してもらった。

交通費の精算があるので、レシートの確認がいる。
こればっかりは、けんちゃんにしかわからない。

レシートを見ているうちに、倒れる前日にどこへ行っていたかも理解できたようだ。

何しに行ったかまでは、まだわからないようだけど。

こうやって、けんちゃんにしかわからないことが作業できているのを見ていると、ほぼ何もかも元どおりになってくれていて、本当にありがたいと思う。

生きていてくれるだけでいいとは思ったものの、記憶があって、体が動かせることがどれだけ助かるか。

なにもかも不自由な状態だったら、わたしの負担はもっと重かっただろう。

元気過ぎて心配なこともあるけどね。

突然、けんちゃんと息子が笑い出した。

一般病棟は通信ができるので、iPhoneも持ってきていたのだが、そのパスワードがわからなくなって、思い出そうとしていたようだ。

ところが、その笑い方が普通じゃない。

甲高い声で笑い、止まらないのだ。

フッと止まるけど、また思い出して笑う。

最初は同じように笑っていた息子もおかしいと思いはじめたようだ。

そこに次弟がやってきた。

最初は、何笑ってんの とにこやかだったが、やがておかしいと思いはじめる。

波のようにやってくる笑い。
甲高い声で、何をやっても笑う。

箸が転がっても笑うっていうけど、あれが止まらない状態なのだ。

息子を見ると笑いが止まらないため、息子にはいったん部屋の外に出てもらった。

何を見ても、何をやっても笑う。

わたしと次弟は視線を合わさないように、表情も凍らせた。

なんでもないときはどれだけ笑ってもらってもいい。

でも今は興奮すると血圧に響くので、わたしたちは怖いのだ。

いい加減怒れてきて、
『いい加減にしやあ!
血圧上がるで。
心臓によくないて!
怒るよ!』
と声を荒げてしまう。

でも、それでも笑っている。

この笑い方は尋常じゃない。

30分近く、笑いの波は来ていただろうか。

やがて疲れたのか、静かになっていってくれた。

ふぅ〜

せん妄

気がついたら面会時間が終わっていたので、明日持ってくるものを確認して病室を出た。

病室を出る前も、またカバンが見たいと、さっき確認したカバンを隅々まで確認していたが、探しものは見つからなかった。

病院を出た途端、どっと疲れが襲ってきた。

息子が言う。

『長居するのはやめよう。
ヤジも、俺たちも疲れる』

数えてみると5時間も病室にいた。

トイレ大冒険や、先生の回診もあったけれど、この5時間、ずっとけんちゃんの話を聴いていた。

つじつまの合わない話をひとつひとつ整理し、それに応えようとするので、非常に疲れるのだ。

ぐったりとして、家に帰る。
家に入った途端、ベッドに倒れ込んで動けなくなってしまった。

iPhone片手に、今日のけんちゃんの様子をネット検索してみる。

見てると、認知症っぽい一面もある。

すると、こんなサイトが目に入ってきた。

思い当たることは、たくさんある。

・日付や曜日がわからない。
・興奮しやすい
・落ち着きがない
・イライラしやすい
・幻覚が見えていた(今はない)
・妄想を抱く(だいぶおさまった)
・話のつじつまが合わない
・いつもよりも大きな声で話す
・夜眠れない

このサイトを見て、術後せん妄だろうと納得できた。

ひとつのことを何度も何度も繰り返し話したり
しゃべり続けるのもそうだろう。

不安から来ているだろうとは思っていたけれど、素人のわたしには対処が難しいとも思った。

先生や看護師さん達はプロだ。

それに接する人が何人もいる。

わたし一人で背負うことはない。

こんな状態のけんちゃんに長時間付き合っていたら、こちらがもたない。

息子が言うように、明日からは時間をもっと短くしようと思った。

そんなことを、けんちゃんの山友の先輩方にLINEすると、こんなメッセージが入ってきた。

『毎日病院に行ってるんか?
毎日行かんでもええやろ。
おまえの方が心配だわ』

ハッとする。
そして、救われた気持ちになった。

確かに毎日行く必要はない。

今までは会いたい一心もあった。

でも、もうその気持ちは満たされている。

心臓が危うい状態であることはなにひとつ変わらないけれど、一番安心できる病院にいるのだし、わたしにできることは限られている。

けんちゃんに振り回されて疲れていては、わたしがもたない。

先生や看護師さん達に、任せて委ねよう。

ICUも出たのだし、毎日行かなくてもいいや。

週に何回かは行かない日を作ってもいいんだな。

ふっと肩の荷が降りる感じがした。

けんちゃんに全力を注ぐステージは終わった気がする。

もっと自分のこともやっていこう。

息抜きに自然の中にも行きたい。

この記事を書いた人

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みうら 雪絵

Nature Therapist / Healing Practitioner / Outdoor Activist / World Traveler / Nature Photographer

人間は地球に生きる多様な生物の一種であり、自然界(生態系)における”いのちの循環”の一部です。自然界との繋がりから離れて生きてゆくことはできない存在です。
自然界と繋がって生きることは、生きる力・生命の力の根源と繋がることだと思っています。

自然界(生態系)の一員としてこの地球に生きている意味を考え、自然の理を感じながら生きるとはどういうことなのか。
今までに学んだ様々なヒーリング・セラピー・カウンセリングスキルを駆使しながら、体(ボディ)・心(マインド)・魂(ソウル)・霊(スピリット)の関係性を探求しています。

このブログには、わたしのライフスタイルを通して、わたし自身が”自然に生きて”いけるようになってゆくプロセスを綴っています。
体験したことを感じたままを表現している「人生という名の創造物」の記録でもあります。

白馬三山を映す八方池

ネイチャーセラピー

五感を使って自然と一体となるだけで、人は日ごろのストレスから解放されます。

Outdoor Activist歴30年以上の経験で培ったフィールド知識を活かして、安心して楽しく自然と触れ合うサポートをしています。

日本シェアリングネイチャー協会 公認ネイチャーゲームリーダーとして、ネイチャーゲームを取り入れた自然体験もご提供可能です。