見ているだけで心豊かになる景色がある。
いつも心のなかにあって、いつでも思い出せる景色。
たとえて言うなら心の引き出しの最上段にあって、いつでもどこでも開けて見ることができる、そんな景色だ。

10月、山肌が紅葉に彩られる頃になると、真っ青な秋晴れの空に浮かぶ山々が見たくなる。
理由はわからない。
バカのひとつ覚えのように、秋空と山岳展望を見たくなる。
晴天予報に誘われるがまま、そんな欲に駆られて中央道を北へ走った。

恵那山の上空の雲を見ながら不安になり、恵那山トンネルを越えて南アルプスを覆う雲を目前にした時、今日はダメだめかとも思った。
中央アルプスも雲の中だった。
でも、それでもあの景色が見たい。
見れる!
そう念じて北へ走り続ける。

諏訪湖間近に来たとき、松本方面の上空にはグレーの雲がかかっていた。
でも、上高地のライブカメラには真っ青な空に映える穂高が映っている。
この青空のために上高地へ? それとも乗鞍高原?? 白骨温泉の紅葉も美しそうだ。
目的地を定めず走ってきたけど、そろそろ行き先を決めなきゃいけない。

「蓼科へ行こう。あの辺りなら温泉はいくらでもあるし、紅葉もあるだろう。」
賭けに出るのをやめた。
心は八ヶ岳の麓に行きたがっている。
もう何度も何度も数え切れないほど行ったけど、それでも行きたくなる、心惹かれる場所だ。
行き尽くしているからこそ引き出しの数が多いエリアでもある。
つぶしはいくらでもきく。
諏訪インターで高速を下りて、一路、白樺湖をめざした。

しかし、振り返ると青空が広がってきていた。
バックミラーの中に、青空の甲斐駒ヶ岳が映っている!
慌てて反対方向へハンドルを切る。
青空の方へ向かうのだ!
今この時に見える景色を楽しむ。
それが私達の楽しみ方だ。

八ヶ岳は相変わらず濃い雲の中。
尖石遺跡近くの森に車を止めて歩いてみることにした。

落ち葉の踏みしめる音を耳に、流れてゆく雲をのんびり眺めていたら、ウトウトしていた。
目覚めて森を出てみると、なんと車山の雲が取れて陽があたっていた。
きた!
これは晴れてくる!!

車に飛び乗って車山をめざす。
大門街道沿いのカラマツや広葉樹の紅葉が美しい。
今年はやっぱり紅葉は遅いな。
そう思いながら、ススキの穂が美しいビーナスラインを上っていく。
見たかった景色が目の前に現れた!
富士山だ。

これが見たかったのだ。
八ヶ岳の美しい裾野の向こう側に見える富士山。
私の引き出しの最上段にある景色だ。
南アルプスの山々。
中央アルプス。
御嶽山。
乗鞍岳、槍・穂高連峰。
日本の屋根と言われる秀峰たちが目の前にどんどん広がってくる。
天気予報を信じて、来てみて良かった。
想い描いていた景色が目の前にあった。

車山肩から小高い丘に登ればもっと遠くまで見渡せる。
美ヶ原のすぐ左には五竜岳。
そこから南へ連なる北アルプスの山々がずらりと見渡せる。
立山の肩には剱岳もくっきりとわかる。

見てるだけで満たされて心が豊かになる景色。
諏訪湖周辺の山々からは見える景色はまさにそれなのだ。

車山に惹かれるのは山々の展望だけではない。
眼下に見える八島湿原、車山から霧ヶ峰に連なってゆくたおやかな稜線。
諏訪の街の近くにありながら、1時間ほど上ってくればこんなに豊かな景色が見れる。
360°見渡せる景色は自然だけが創り出す世界が延々と広がっている。
車山の山頂や美ヶ原にはレーダーや電波塔があるけど、そんなものがちっぽけに思える。
何十年も何百年も繰り返し繰り返し季節を移ろいながら繋がれてきた自然の懐の大きさを体感できるのだ。

そのうち全身が解放感で包まれていき、わたしという身体を抜け出して自然の一部になっていく。
そんな感覚がしてくる。
この無限の解放感。
それを感じたくて足が向くんだ。きっと。

ここから見える景色は四季折々見てきた。
雪解けが始まり花が咲き乱れる湿原の春。
夏雲の下、斜面が黄色く染め上がるニッコウキスゲの大群落。
銀色に煌めくススキの穂、ところどころに美しいシルエットを見せるカラマツの黄葉。
そして白だけが広がる雪の世界。
初めて見た30年前からこの景色は変わっていない。
自然界にとってみればわずか30年。

人間なんてちっぽけなもんだ。
このスケール感の中にいると日々の煩わしさがバカバカしい。
もっと大きく、広い、この青空のように生きていきたい。
翼を広げて悠々とこの大空を舞う鷹のように。
そんな想いが自然と湧いてくる。
自然と一体になると自分の小ささがよくわかる。

太陽が中央アルプスの上まで移動し、光が優しくなってきた。
風が強い。
山の景色はさらにクリアになり青空がどんどん広がっていく。最後まで雲を纏っていた八ヶ岳も姿が見えてきた。
赤岳は冠雪してるようにも見える。
いつまでも見ていたい。
今宵はきっと満天の星空だろう。
けど、今日はここまで。

帰りがけの茅野市内から槍・穂高連峰が見えていた。
夕焼けにシルエットで浮かぶ山々はひときわ大きく、岩稜の荒々しさが際立って見えた。
最後まで信じて待ってたご褒美だね。
また、この景色を見に来よう。
今度は真っ白な山々を見に、スキーで登るのもいいな。

旅の情報

旅日
2016年10月30日

旅先
長野県・車山

ビューポイント
車山肩(駐車場、トイレ、売店あり)
富士見台(駐車場、トイレ、売店あり)

アクセス
中央道 諏訪ICから大門街道経由 13km

地図

長野県諏訪市四賀 車山肩駐車場

実況天気



最高気温
11.5℃
最低気温
4.9℃
日最大風速
7.9m/s

服装メモ
フリース+ダウンベストだったけど、薄手ダウンジャケットでもよかったかも。
手袋忘れて寒かった!
耳当て、インナーウェアはナシ。

この記事を書いた人

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みうら 雪絵

Nature Therapist / Healing Practitioner / Outdoor Activist / World Traveler / Nature Photographer

人間は地球に生きる多様な生物の一種であり、自然界(生態系)における”いのちの循環”の一部です。自然界との繋がりから離れて生きてゆくことはできない存在です。
自然界と繋がって生きることは、生きる力・生命の力の根源と繋がることだと思っています。

自然界(生態系)の一員としてこの地球に生きている意味を考え、自然の理を感じながら生きるとはどういうことなのか。
今までに学んだ様々なヒーリング・セラピー・カウンセリングスキルを駆使しながら、体(ボディ)・心(マインド)・魂(ソウル)・霊(スピリット)の関係性を探求しています。

このブログには、わたしのライフスタイルを通して、わたし自身が”自然に生きて”いけるようになってゆくプロセスを綴っています。
体験したことを感じたままを表現している「人生という名の創造物」の記録でもあります。

白馬三山を映す八方池

ネイチャーセラピー

五感を使って自然と一体となるだけで、人は日ごろのストレスから解放されます。

Outdoor Activist歴30年以上の経験で培ったフィールド知識を活かして、安心して楽しく自然と触れ合うサポートをしています。

日本シェアリングネイチャー協会 公認ネイチャーゲームリーダーとして、ネイチャーゲームを取り入れた自然体験もご提供可能です。