著者の蔵治光一郎先生は愛知県にある東京大学生態水文学研究所の所長で、森林水文学が専門です。
森林水文学とは、森林での水のゆくえを科学する分野です。
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林 | 生態水文学研究所
蔵治先生の専門である森と水、さらに人との関係について、今どこまで解明されていて、何がわかっていないのかがわかりやすく書かれています。
森が水の流れに及ぼすさまざな影響のうち、人間にとって都合のよい機能は3つあります。
- 洪水緩和機能
- 水資源かんよう機能
- 水質浄化
それぞれ科学的にわかっていることと、わかっていないことが明らかにされてましたが、いずれも「イメージ」や「勝手な思い込み」があって、真実を知らないもんなんだな と思いました。
例えば水資源としての森の機能は、「森のダム」「緑のダム」といった言葉の持つイメージで、人にとって好都合のように思えますが、そうではないんですね。
そもそも木は水を消費しています。
森に降った雨もすべてが地中に染み込むわけではありません。蒸発してしまう分もありますね。
森に降り注いだ雨と、森林に消費されてしまう水のバランスが変われば、水涸れを起こすこともあるんです。
実際に水枯れを起こしている山村の話や実証研究の例が紹介されていました。
森が水資源として、人間のために好都合なことばかりではない、ということなんですね。
他にも、水質浄化機能について、
「おいしい水を育む森」といった聞き心地のいい言葉に酔うのはそろそろやめて、いま日本の森林とそこから流れ出る水の質との間で何が起きているのか、冷静に、科学的に考える時にきているのではないだろうか
と、提言されています。
私たちになくてはならない「水」と、その水源としての「森」の保全について、本当のことを知り、1人1人が「自分の水」と捉えて関わってい必要がありそうです。
科学的な知見を持つ研究者と、その流域に住む人々と、森と水に関わる仕事に携わる人たちが連携して、その流域について考え、協働してゆく。
実際にそんな取り組みがすでになされている地域や企業も紹介されていました。
- 宮崎県綾町の「綾の照葉樹林プロジェクト」
- 群馬県みなかみ町の「利根川源流・赤谷プロジェクト」
- 愛知県豊田市の「森づくり条例」「100年の森づくり構想」「森づくり基本計画」
- 鳥取県・サントリー天然水(株)の「奥大山ブナの森工場」
「森と水と人」のために何をなすべきなのか、目先のことにとらわれず、遠い未来を見据えて、できることを真剣に考える時が来ているんですね。